ある大雪の日の彼ら


 もう、いい加減にしてくれ。
 立ち慣れた名古屋駅の新幹線ホームの端で、何度経験しても平気になれない状況に、俺はげんなりとする。
 夕方前から空気を白く煙らせるほど降り出した雪は、夜になっても勢いを衰えさせず、目に見える景色をすっかり変えてしまった。
 線路からは鋭い硬質な輝きが失われ、ホームは床だけでなく、普段なら乗客が腰掛けている椅子の上にまで白色が浸食している。列車を待つ乗客は皆一様に曇った表情をして、雪が積もり続ける線路や頭上の電光掲示板、手持ちの携帯端末に目をやっている。中には、吹き込んでくる雪に耐えきれずに傘を差している者もいる。
 ……くそ。
 俺は悪態がこぼれるのを寸前で堪えた。唇を固く閉じて、新大阪方面の線路の先を見据える。
 そこには、無数の細かな白が舞う暗闇ばかりが広がって、求める強い光はまだない。
 本当ならすでに到着している東京行きの列車は積雪による減速運転の影響で、ようやく三河安城駅を通過したところだ。いつもならあと十分ほどで名古屋駅に着くが、こちらの積雪も多くなっているから速度は上げられず、もう少し時間がかかるだろう。
 俺は右手に持つ懐中時計を握りしめた。
 待っている者が大勢いるのに、必要とされているのに、自分の存在を意義を果たせない。こみ上げてくる苛立ち、悔しさ、虚しさに意識が重たくなってくる。
 そんな情けない俺をあざ笑うかのように、雪片を巻き込んだ風が吹き付けてきた。凍りつきそうな冷たさに身が震え、暖かい場所でじっとしていたい欲求に駆られる。
『雪が苦手とは……難儀だな』
『それぐらいの雪なら、僕達は平気で走れるよ。かわいそうに』
 ふと脳裏に、雪の中を平然と走っていく東北の奴らの姿が過ぎった。
 くそっ……負けてたまるか。
 奥歯を噛みしめて、俺はうつむきかけていた顔を上げた。
 浅くなる呼吸を整えて、走行感覚に意識を集中させる。
 名古屋から大阪にかけては雪で減速せざるを得ない。だが、静岡から東京の間は雪が降ってないから、そこまで行けば遅れは幾分か取り戻せる。
「……大丈夫だ」
 白色の吐息に紛れ込ませるようにして自分に向かってつぶやく。
 昔と比べれば、雪の日の走行は随分としやすくなったのだ。音を上げるにはまだ早い。
「――まもなく、十四番線にのぞみ134号東京行きが参ります」
 ホームに聞き慣れたアナウンスが響いた。夜の闇に続く線路の先に、待ちわびていた光が見える。
 降る雪を散らしながら、確固たる白い車体が名古屋駅に入ってきた。
 予定時刻よりも十分十五秒の遅れだ。
 停車した車両とホーム可動柵が開き、乗っていた客が降りて、待っていた客が足早に乗り込んでいく。乗降は混乱もなく無事に終わった。
 だが、普段のようにすぐには発車できない。
「只今、到着列車の雪落としの作業を行っております――」
 発車の前に車体に付着している雪を落としておかなければならない。でないと、走行中に凍った雪が取れて車体に当たり、窓や部品などが損傷する恐れがあるからだ。
 早く走り出したいと気が急くが、安全運行のためには待つしかない。
 一分、三分、五分……。
 時間が経っても一向に止む気配の見せない雪が、風に乗って顔や体にまとわりついてくる。うっとうしい。
「東海道幹、のぞみ134号の雪落としの作業が終わりました。発車できます」
 右胸のほうにつけている無線に、作業員から連絡が入った。
「了解。17時20分に発車する」
 俺は返事をして、少しほっとした気分で周囲と懐中時計を確認する。
 乗客の乗降は完了している。前を走る列車との距離も問題ない。
 よし。
「十四番線の扉が閉まります。安全柵から離れてください――」
 アナウンス、そして明るい電子音がホームに流れて、車両の扉が閉まる。
 …………ん?
 自分の目を疑った。何度か瞬きして、記憶を思い返す。
 ……思い違いじゃない。
 車両とともに閉まるはずのホーム可動柵が閉まっていない。
 どうしたんだ? トラブルか?
 別名、安全柵とも呼ばれるように安全のために設置している扉のため、運行システム上、ホーム可動柵も閉まらないと発車ができないことになっている。だが、駅の設備に関しては俺ではなく、社員の管理範囲だ。
「どうした、ホーム可動柵が閉まってないぞ。何かトラブルがあったのか?」
 俺は焦りを覚えながらも、平静な口調を保ちながら無線で尋ねた。
 少しの間を置いて乗務員から返事がきた。
「どうやら、何らかの原因でホーム可動柵が閉まらないようです。車両のほうに問題はありません」
「……俺のほうにも問題はない」
 となると、原因はホーム可動柵か。
「しかたない、原因が判明するまで上下線で運行を止める。念のため、他の番線のホーム可動柵にも問題が起きてないか、点検を行ってほしい」
「わかりました」
 俺は無線には入らないように小さくため息を吐いた。
 ただでさえ遅延が回復しづらいのに……これでまた遅延の時間が伸びてしまう。
 異変に気づいたのか、ホームがにわかにざわつき出す。電光掲示板とアナウンスが上下線とも一時運転見合わせの情報を知らせると、人々の表情がさらに暗くなる。
 俺は、ホーム可動柵の点検をしている作業員のほうに少し視線をずらして、制服についている雪を手で払い落とした。雪の降り続く外にいる限りこんなことをしても意味はほとんどないとわかっているが、物理的に何かしていないと気分は下がる一方で、鬱屈としたものが表に出てしまいそうだ。
 ああ……西のほうだけでなく、東のほうでも列車の詰まりが起き始めている。このままいくと遅延が二時間以上になるな……。
 呼吸をする度に吐いた息が白く変わり、眼前を漂い、冷たい大気の中に消えていく。
 時間だけが淡々と進む。
 逸る気持ちが軽い絶望感へと変わったとき。
「東海道幹、ホーム可動柵の点検が終わりました」
 待ちに待った連絡がきた。
「十四番線の異常は、障害物を感知するセンサーに雪が付着したのが原因のようです。他の番線について異常はありませんでした。ひとまず、十四番線は手動で対応して閉めます。現在停車中ののぞみ134号の発車をお願いします。その後は、詳細な点検と修理のため、しばらくの間、十四番線を使用不可にします」
 マジか。
 俺はわきあがってきた素直な感想を喉の手前で止めて、呼吸をし直して返事をする。
「了解。十四番線のホーム可動柵が閉まり次第運行再開し、上り線は十三番線だけで運行する」
 無線へ傾けていた顔を十四番線に向ける。
 ホームドアから下がるように注意するアナウンスが流れて十秒後、ホーム可動柵は無事に閉まった。
 よし、これでやっと発車できる。
 発車を知らせる電子音がホームに響く。一回警笛を鳴らして、のぞみ134号は東京方面へとゆっくりと走り出した。
 速度を徐々に上げて雪片を周囲に舞い散らしながら、十六両目が視界を過ぎていき、赤色のテールランプが遠くへと去って見えなくなった。
「お知らせします。十四番線ホームはホームドア故障のため、一時使用を中止します。以降の発車は十三番線ホームから行います。繰り返します――」
 十四番線の電光掲示板から運転情報が全て消えて黒一色に変わる。十四番線の近くにいた客達は、アナウンスの指示に従ってそろそろと後ろのホームへと移動していく。
 俺はホームの端にある事務室に足を向けた。
 ただでさえ雪で遅延が解消しないというのに、これから始まる上り線一本さばきにも対応していかないとならない。こういう事態のとき、正確に効率よく運行するためには、東海主幹との協力と連携、また文明の利器の力が必要だ。


「ホームドアが故障したから、上りが十三番線しか使えない? こんな忙しいときに何してるの?」
 冷たく突き刺さるような声が耳の奥にまで響く。
 俺は携帯端末を握る左手に力をこめた。
「俺のせいじゃない!」
「わかってるわ」
「っ……」
 あっさりとした返事に息が詰まる。相手の反応に少しでも取り乱してしまったことに悔しさを覚えて、奥歯を噛みしめた。
 だが、こちらのそんな胸中にかまうことなく、東海は冷静に言葉を続ける。
「状況はわかったわ。在来線との接続や施設関係のトラブルの対処は私が引き受ける。あなたは運行に集中しなさい。予報では、雪は東海地方を中心に今夜いっぱい降る見込みよ。危険とならない範囲で、一本でも多くの列車を走らせなさい。あと、何かあったらすぐに連絡をすること。いいわね? 東海道新幹線」
「了解」
 俺の返事を受けると、東海はすぐに通話を切った。彼女のことだ、サポートは念入りにしてくれることだろう。
 俺は携帯端末を耳から離して、一つ大きく息を吐いた。
「……がんばろう」
 やるしかない。やるために自分は存在しているんだ。
 携帯端末を制服のポケットにしまい、視線をすぐ前にある机に向けた。そこには、運行システムが組み込まれたノートパソコンと非常時にでも使える固定の通信機器が置いてある。さらに向こう側の壁には、最新の天気予報や山陽新幹線の区間も含めた運行状況と、在来線に関した情報が表示された液晶ディスプレイがかかっている。
 主要駅のホームの端にある自分専用の事務室は六畳ほどの広さしかないが、運行に役立つものはそろっている。
 俺はノートパソコンの画面を見つめた。黒色の背景に、新大阪から東京駅までの自分の路線の全区間が直線で表されている。直線は上下線一本ずつで、上部に画面の左端から右へ東京駅から名古屋駅までが、その下には同じように名古屋駅から新大阪駅までの区間がある。計四本だ。線上には途中駅が円形で表されている他に、現在走行中の列車の番号、列車の種別が色分けされて表示されている。色は、のぞみが黄色、ひかりが赤色、こだまが青色だ。画面はほぼリアルタイムで自動的に更新されていく。区間を指定して、線路の状態などと合わせた詳細な状況を確認することも可能だ。
 視覚的に知ることのできる運行状況の下には、文字で現在の状況を表示するスペースがある。問題が何も発生していなければ空白だが、今は、雪による遅延と名古屋駅のホーム可動柵の故障による遅延についてが赤文字で書かれている。
 文明の利器だ。これに頼るのではなく、自分の運行感覚と合わせて使用するのだ。こういった機械のおかげで、全体の運行状況の把握にかかる時間と労力が減り、どの列車をどう動かしていくか判断がしやすくなった。また、他の者にも現在の運行状態を伝えやすくなった。今みたいな運行トラブルが起きているときは、とくに重宝している。
 ――危険とならない範囲で、一本でも多くの列車を走らせなさい。
 ふと、東海の言葉が耳によみがえった。
 言われなくても、わかっている。一本でも多くの列車を走らせて、一人でも多くの人間を目的の場所まで運ぶ。そのために、自分は今ここにいるのだから。
 心の中で己の存在意義を繰り返して、俺は意識を、感覚を、運行に集中させた。


「――頑張っておるのう、シン」
「!」
 不意に近くで聞こえてきた声に、俺は驚いて跳ね上がりかけた。パソコンの画面に向けていた顔を感じる気配のほうへ慌てて動かすと、くせのない銅色の短髪に同色の瞳をもつ、路線擬人の制服を着た男が一人、すぐ横に立っている。
 東海道本線だ。
「じじい……ノックぐらいしろよ」
「したぞ。おぬしが集中し過ぎて気づかなかっただけじゃろ」
 いつもと変わらず、飄々と東海道本線が応える。
 いや、だからって、部屋の主の返事もないのに入ってくるなよ。こっちは必死で仕事してるんだぞ。
「シン、怒ると運行に必要な体力と気力を消耗してしまうぞ。ほれ、これでも飲んでリラックスしろ」
「あつっ!」
 突然頬に体温よりも高い熱を感じた。俺は反射的に顔を引いて、熱さがしたほうに手を振った。と、固い、触れるものがある。たしかに熱い、が触れないほどではないことに気づく。
 なんだ。目を向ければ、それは、売店で売っている250ミリリットルのペットボトルほうじ茶だった。
「おい……」
「礼ならいらぬぞ」
 俺はペットボトルの向こう側に見える東海道本線を睨みつけてやった。だが、食えない笑顔は微動だにしない。
 腹が立った。が、それ以上怒ることを諦めた。
 俺は、押しつけるように差し出されているペットボトルを受け取った。橙色のふたを開けて、中身を一口飲む。ほうじ茶の香ばしいかおりがして、喉から胃のあたりにかけてが温まっていく感じがした。
 一つ小さく息を吐いた。
 正直言って、これぐらいでは雪にやられた心身が回復することはないが、気分的には少し落ち着いた。
 ペットボトルにふたをして机に置き、パソコンの画面に向き直る。淡々と正確に運行状況が表示されている。遅延は、一時間前よりも改善されるどころかひどくなっている。時間もそうだが、範囲も広がっている。
 これは、新幹線ホテルを覚悟しなければならないか。自分に与えられた車両は、人間達を寝泊まりさせるためのものではないのに……。
 仕方がないことだとはいえ、いつも複雑な気分になる。
「ふむ。静岡のほうまで大変なことになっておるのう。名古屋駅のホーム可動柵の異常がなければ、まだましだったかもしれんのに……不運じゃのう」
 東海道本線が横からパソコンをのぞき込んで、同情するように指摘してくる。
 うるさい。そんなこと、わざわざ言われなくてもわかっている。というか。
「おい、じじい。こんなところで油売っていていいのかよ。あんたのところも雪降ってるんだろう」
 横目でそう言えば、東海道本線はのんびりとした口調で、
「今のところ、わしのほうはたいして問題は起きておらん」
「っ、なんでだよ!」
 返された答えに、俺は思わず怒鳴っていた。
 だって……おかしいだろ。東海道本線とは線路が近い箇所が多くある。それなのに問題がないって……。自分がこれだけ運行支障が出ているのに、なんで……。
 ――在来線は運行できるのに、新幹線は運休せざるを得ない。
 失望した表情でため息を吐く人々。
 ――雪の日の新幹線は役に立たない。
 ただ白くなっていくばかりの鉄路。
 嘆きに呼応するように、あの悪夢の時代が脳裏によみがえってきた。
 走りたいのに走れない。
 走れないから、人間達から必要とされなくなる。
 内側から強い寒気を感じて体が震えた。
「シン、大丈夫じゃ」
 強ばる意識に穏やかな声音が響いた。
 引きつけられるようにまっすぐ東海道本線を見れば、自分と同じ黒茶色の瞳が静かに見返してくる。
 不思議だ。どこか力強さを感じるそれに、忌まわしい記憶が遠退いていく。
「東海道本線……」
「大丈夫」
 肩にそっと手が置かれる。
「ホーム可動柵の故障は隣のあおなみ線でも起こっておる。おぬしだけではないぞ。安心しろ」
「っ……、そんな慰めいるかー!」
 俺は勢いよく東海道本線の手を振り払った。
「こらこら。怒ると疲れてしまうぞ」
「うるせー!」
 ああ、もう、雪の日は本当に嫌だ。

   ◇

 車体のところどころに雪をまとった、橙色の帯が鮮やかな列車が豊橋駅に到着する。車両の扉が開き、中から数人の乗客がホームに降りて、足早に改札へと向かっていく。
 ……良かった。
 おれは、正面に停車した特急伊那路を目にしてあらためて実感する。
 北部側で強風のせいでうまく走れず、三十分以上の遅延を出してしまったが運休に至ることはなく、無事に終着駅に着けた。
 おれはほっとして息を吐いた。たちまち、目の前の空気が白く変わる。
 今日は朝から冷え込んでいたが、日が落ちてさらに寒くなった。夕方頃から降り出した雪も時間とともに量を増して、景色はあっという間に愛知では珍しい、銀世界へと変貌した。
 天気予報ではこれからまだまだ降るという。雪の影響もそろそろ出てきそうだ。二日前に長野のほうで大雪に見舞われたばかりだというのに、また面倒な……。
「ん?」
 制服のポケットが震えた。携帯端末の電話の着信だ。取り出して画面を見れば相手は名古屋本線東、もとい、メイ。
 状況的に嫌な予感を覚えながら、電話に出る。
「メイ、どうし――」
「飯田ちゃーん!!」
「っ、」
 耳がキーンとなった。おれは反射的に携帯端末を耳から離した。
「飯田ちゃん! 飯田ちゃん! ねぇ、飯田ちゃん!」
 こぶし二つ分ほどの距離があるにもかかわらず、メイがおれの名前を連呼する声がはっきりと聞こえてくる。
 ……ったく、こいつは……。
 おれは送話口のほうだけを自分に傾けて近づけ、もう一度口を開いた。
「メイ、うるさい。声を弱めろ」
 すると、受話口から漏れていた声が聞こえなくなった。おれは携帯端末を耳のほうにも少し近づける。
「ごめん、飯田ちゃん」
 さっきよりも半分程度の声量でメイが返事をしたのがわかった。
 おれは一安心して携帯端末を耳に当て直した。
「どうしたんだよ」
「あのね、おかしいの。わたしが雪の影響を受けて遅延してるのに、東海道の奴はほとんど遅れてないの。悪天候で名古屋本線のほうが負けてるなんて、おかしいよね、おかしいと思わない? なんで、あの東海道が平然と走っていられるの。これじゃ、あいつよりも強い路線っていうわたしのイメージに傷がついちゃうよー!」
 ……いや、おまえと東海道、どっちのイメージも大差ないと思うぞ。
 メイの嘆きに、ときどき耳にする、利用者からの二つの路線にたいする感想を思い出す。
 だが、それを正直に言うとメイのことだ、さらにとても面倒くさくなるだろう。だから、おれは感じたことを心の中にしまって、三番線ホームの名鉄の電光掲示板に目をやりながら別の言葉を返した。
「そうか。言いたいことがそれだけなら、電話切るぞ」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ、飯田ちゃん! それだけじゃないよ。遅延が豊橋のほうにも及びそうで、その連絡もあるよ!」
 慌てた様子でメイが言う。
 だろうとはすでに予想していたから驚きはない。まだ電光掲示板には反映されてないが……今までの経験からして、そうかからないだろう。そして、雪が原因だとしたら、これから遅延の時間は増えて長引く。
「わかった。じゃあ、規定通り、おまえの列車が予定よりも二分以上発車が遅れる場合は、共有区間はおれ優先になるからな」
「はーい」
「あと、北部側の気象の影響もあって忙しいから、今日は仕事以外の話はこれ以上聞かないぞ」
「えー、飯田ちゃ……」
 メイの声が途切れる。
 問答無用で通話を切ってやったのだ。もしもこれで、聞き分け悪くメイが豊橋駅にきたら、一発叩いて伊奈駅に帰してやる。
 そんなことを考えながら携帯端末をポケットに戻したとき、名鉄名古屋本線の電光掲示板が遅延の情報を表示した。
 さて、今日はこれからが大変になりそうだ。
 おれは名鉄のアナウンスが流れるホームを歩いて、運輸区の事務所へ向かった。