アースガルドの神々事情 5


 アースガルドに夜の帳はすっかりと下りて、昼間の盛り上がりはすでにない。
 とくに広い館の一室には、どこか冷たく呆れた気配さえある。
「満足か、オーディン」
 円卓を挟んで向かい側に座る相手が杯を置いたのを見計らって、チュールが声を発した。
 灰色の眼が手元から上げられて、唇が薄く笑みを形作る。
「思っていた以上に面白かった」
 本当に愉快げな響きしかない返事にチュールは顔をしかめた。
「遊ぶのもほどほどにしろよ。火のないところに煙は立たない」
「だが、おまえにとっても今日の大会は『よかった』だろう?」
 放った戒めはあっさりと抜けられてしまった。
 チュールが少し眉尻を上げて険しい表情を作っても、対する白髪の男の顔は微動だにしない。
「気になっていたフレイと手合せができて、どうだった?」
 しかも、そんな質問さえ重ねてくる始末だ。
 そこには、恐れも遠慮もない。それもこれも、自分と相手の関係のせいだろう。
 昔馴染みとはなんと厄介なことか、とチュールは再認識する。そして、気づかれているのなら、隠すことも無意味だというのも。
「強い。あの戦争のときに前線でヴァン神族を率いていたことはある」
「しかし、途中でふられていたな」
 オーディンの事の言い表し方にチュールは揶揄の気配を感じ取ったが、面倒だからその点は無視して会話を続けることにした。
「気づいていたのに、おれが勝者でよかったのか?」
「結果よりも過程のほうに興味があったからな。それにあのフレイのことだ。自ら負けを選んだのは、それなりに思うところがあったんだろう」
「過程……? オーディン、今回の大会は剣の腕前を確認したかったからではないのか?」
 根本的な認識の違いを悟ってチュールが怪訝の色をのせて訊けば、オーディンは口元の笑みを深くした。
「我がアース神族は安泰だな」


〈あとがき〉
このお話は別名義で初めて出した北欧神話の同人誌です。
最初だから、と多くの神々がわいわいする話を書いてみました。
ただわいわいしているだけでなく、わが家の北欧神話の登場人物たちの設定についてもわかってもらえるようにも書きました。
神々はそれぞれ個性的で書いているのが本当に楽しいです。
このお話を読むと、やっぱりわが家のアース神たちって仲が良い!感じはしませんね……。基本は各自好き勝手で、妥協な関係もちらほらあったりします。もちろん、中には普通に仲の良い関係の者もいますが……。
本編はここまでで、αはこの話に関係した小話を載せていますのでよろしければご覧ください。